2月12日、今津コミュニティーセンターを会場に「第6回 中津干潟NETアカデミア・研究発表会」を開催しました。今回も市民参加はできず、NETでの開催とあいなりました。テーマは「自然の力を活かす・生態系減災について考える」でした。(配付資料)
午前中は、これまでに中津干潟で行われた学生や研究者による調査・分析などについての研究発表を行いました。大阪の南港ウエットランドグループの和田太一先生、水辺からは、蛎瀬川のごみ拾いを続けている太田博之先生、貝染のワークショップを開いた大分大学の都甲由紀子先生、中津干潟の底質を調査している九州大学の田井明先生などが研究の成果を発表しました。さらに、大分大学、水産大学校、日本文理大学の学部生などが主に卒業研究を中心とした研究成果を話してくれました。
午後からは、今回のテーマに沿った基調講演とシンポジウムを開催しました。パネリストに水産大学校名誉教授の須田有輔先生、群馬大学の鵜﨑賢一先生、九州大学の田井先生、映像参加として日本文理大学の中西先生を迎え、司会を同じく日本文理大学の池畑義人先生が行いました。環境保全団体のシンポジウムに土木の専門家が3名も入っているというのは結構珍しいことのようでした。ただ、実際に自然環境と直接向き合っているのは、案外土木関係者だったりするので、土木関係者のお話を聞くのはとっても大事なことだと考えています。
今回のテーマは「自然の力を活かす 生態系減災について」でしたが、どちらかといえば「土木工学」の分野から意見が多かったのではないかと思います。土木方面の先生方が多かったことが主な要因ですが、それでも生態学や生きもの視点にたった考察も多く見られました。現代土木においては、生態系を考慮に入れない開発はほとんど考えられないような時代になりつつあります。ただ、やっぱり視点が異なるので、生きもの屋さんから見ると「ちょっと違うかも…」という部分があったことも言っておきましょうね。
土木関係者は、ともすれば自然環境の破壊に寄与していると批判されることが多いのは事実です。しかし、実は一番自然に近いところで、人々の安全・安心と自然環境との折り合いを葛藤しながら仕事をしていることも心に留めておく必要があると思います。何らかの工事、施業を行うとき、市民の声がとても大切になります。大災害の直後では、一刻も早く力ずくで護岸などの工事を促す大合唱が響いたりします。一方で、災害はいっときの事で、日常的には美しく親しみやすい自然環境、生態系サービスを享受できる日々を市民は求めたりもします。安心・安全と生態系サービスの維持は、時に相反する訳ですが、実務者はそこで決断を迫られるわけですよね。可能ならばどちらの要望も満たせる選択をしたいというのが人情でしょう。
自然保護とか環境保全は、何か特別な生きものを守ろうとか、希少な自然環境を保全するとかいうイメージが強いと思います。でも、私たちが暮らす都市も含めたあらゆる場所は、自然環境の一部です。ですから、それら全てをよりよい状態にしていくことが、本当の自然保護、環境保全ということになるのではないでしょうか。なぜそうするのかと言えば、自然環境が元気でなければ、私たちの暮らしも元気でなくなってしまうからです。例えば、一次産業の衰退は単に経済の問題だけではなく、自然環境の劣化の影響を受けていることは広く知られていますよね。経済活動や社会活動の根本はやっぱり自然環境だとうことなですよね。
防災・減災についても、明治以来、強力な近代土木の力を駆使して国を挙げて行ってきましたが、それは必ずしも持続可能なものではなく、強力だけど劣化を伴うものであり、人口の増加、経済の恒常的膨張が見込めない社会にあっては、大きなリスクになるとさえ考えられるようになってきました。そこで、本来自然環境が内在している防災・減災の力を上手に引き出していくという考えが注目されるようになったわけです。
その一つがEco-DRR(生態系の力を活かした防災・減災)です。これは、現代土木を塗り替えるような存在ではなく、補完するものであると考えられます。ただし、Eco-DRRの多くは、江戸時代以前から人々が多くの時間とエネルギーをかけて自然を観察し、時には実験を繰り返して得た知見を土着的に実践してきたものでもあります。つまり、古くから日常の中に取り込まれてきたものだということなんです。里山の自然や防風林、棚田、自伐林業などもこれにあたります。
そういった古くからの知恵を現代の視点から見つめ直して、今という時代の中で再生させる必要があるのだと思います。ちょうど、現代医療の現場で西洋医学を中心にしながらも漢方薬を処方するように、結果が改善に向かうことがはっきりしているのなら、なぜ効くのかが必ずしも解明されていなくても積極的に活用してもよいのではないでしょうか。これには社会のコンセンサスを必要とするでしょう。自然環境を相手にするときは、スピードやコスパ、生産性など短期的な視点に振り回されるのではなく、100年とか数百年とか長いスパンでコストや効率について考える必要があると思われます。
つまり、初期投資が係っても、長期的な安定が望めるのであれば、あえてゆっくり施業進めることも考える必要があるのではないでしょうか。漢方薬の多くはゆっくりと体全体を回復させて、結果として病を癒やすという力がある(即効性の漢方、鍼灸もありますが)ことが知られていますよね。そんな事を妄想しながら先生方のご意見を伺っておりましたよ。
まずは、足利理事長が挨拶です。
今年も奥塚中津市長から祝辞をいただき、また粟田教育長もご出席頂きました。ありがとうございました。
損保ジャパン大分支店の鈴木様よりご挨拶をいただきました。
和田太一さんは、舞手河口のセットバック護岸の大切さについて生きものの視点からお話をされました。
太田博之さんは、蛎瀬川のごみ問題について報告しました。一人で何百キロものプラごみを集めました。
大分大学の都甲先生は、学生さんと一緒に帝王紫ワークショップについて発表しました。
九州大学の田井先生は、中津干潟の底質調査についてのお話。生態系研究の基礎の部分ですね、重要です。
水産大学校の瀬古さんは貝のエサについて… 貝って何を食べるか知っていますか?実はいろいろなんですよ。
同じく、土井さんは塩性湿地のお魚について… 干潟や海は大切って知られているけど塩性湿地は後回し?
野副さんは、みんな大好きなウナギについての発表を行いました。ウナギの子どもは石ころの間が大好き!
日本文理大学の大城さんは、水辺に遊ぶ会の自然観察会の子どもたちに与える影響について研究しました。スゴイ!
午後からのシンポジウムに先立って、大分NPOデザインセンターの山下茎三さんが、save japan projectの取り組みについて紹介されました。
続いて群馬大学の鵜﨑賢一先生が、基調講演。中津干潟の砂の動態を基本に防災についてもご教授いただきました。
水産大学校名誉教授の須田有輔先生は、海岸生態学の立場から、Eco-DRRについてお話を頂きました。面白い!
日本文理大学の中西先生からは、Eco-DRRの基本と河川工学の立場からのご意見をいただきました。基本ですよね。
全体コーディネートはNBUの池畑先生。中津のEco-DRR「セットバック護岸」設置の経緯についてお話されました。
議論の途中、飛び入り的に足利理事長、奥村副理事長なども参入。セットバック護岸建設の合意形成過程を語ったよ。
今回も多くの研究者や学生の皆さんが集い、楽しく学ぶことができました。これから、自然の力を活かした減災についてさらに知見を増やしていきたいですね。