次の10年 ~中津干潟ネイチャーミュージアム~

昨年7月に水辺に遊ぶ会は発足から20年を迎えました。これまでに実に様々な事業を展開して来ました。めまぐるしい日々の中で本当にびっくりするようなスピードで時が過ぎていきました。気付けば20年…でもミッションの達成は道半ばです。

会のスローガンは「生きもの元気、子どもも元気、漁師さんも元気な中津干潟を100年後も…。」です。今ある豊かな自然を人の生活もそのまま次代に伝えていくこと。人と自然とのよりよい関係をつくっていくことを目標に活動してきました。

20年の節目の今、次の10年について考えてみました。これまで干潟保全に関する限り全方向的に活動してきましたが、その結果どうしても実現させたいことがでてきました。いわばこれまでの活動のエッセンスとも呼べるものです。それは、「中津干潟ネイチャーミュージアム」を実現させるということです。

2016年に中津市東浜に、多くの皆様のご協力で「ネイチャーセンターひがたらぼ」を完成させることができました。おかげさまで、開館以来多くの人々が集い、子どもも大人も老いも若きも、近所の人も、遠方の方も「ひがたらぼ」に集うことで、干潟の自然を中心に自然科学全般について語り合うことができるようになりました。「小さな干潟の博物館」を標榜していますが、活動は自然科学博物館と地域振興を足したような「干潟よろず相談所」の様相を呈しています。

何の後ろ盾も無い一地方の小さなNPOが、よくここまでできたものだと勝手に自画自賛しているとことですが、実際は、環境保全についても、環境学習や地域振興などにしても、まだまだ力が足らないことを、ある種の無力感も含みながら深く理解しているつもりです。実際、わたしたちが目標とする若い人たちが職業として選択できる場所としてのネイチャーセンターにはなっていませんし、建物も狭い仮設でしかなくワークショップ一つ開くにも場所について逡巡しているような始末です。

理想を言えば、わたしたちが目指す「中津干潟ネイチャーミュージアム」は、自然史博物館とネイチャーセンターの機能を併せ持つ総合施設です。その機能は、

①保全活動の拠点(中津干潟と中津の水辺環境の保全や希少生物の保護、研究の推進を行います)

②教育の場(観察会、講座、展示やワークショップを通じて地域の環境学習を促進します)

③博物館(標本や情報の保存、展示、発信、更には民俗や文化等の継承についても考えていきます)

④研究交流(中津で研究を行う研究者や学生への支援や情報交換、地域の青少年や住民と研究者や学生との交流の場づくり、若手人材の育成も視野に入れています)

⑤まちづくり(漁業振興や地域おこしなど、自然環境の持続可能な利用と保全をつなげていきます)

です。

これらの事は、急に思いついた事でも、何の裏付けも無い机上だけの目標でもありません。これまで20年の活動の中で培われたものです。何も無いところにポンと乗せた目標でも、先に建築ありきの計画でもありません。これまでの積み上げてきた活動の延長であり、発展への道のつもりです。そしてそれが、この地域で暮らす人々や生きものたちにとって価値あるものになると信じています。

気候変動や生物多様性の問題など地球環境といった、とても大きなレベルで国際社会は議論している真っ最中です。でも、私たち一地方の生活者にとっては少々遠い世界のことのように感じられがちです。実際は、一人一人の行動が世界を動かしているのですが、それは中々理解しにくいことだと思います。

私たちにできることは、私たちが生活している目の前の場所そのものについて、もっと知ることだと思います。私たちが暮らすこの中津、豊前地域には、他の地域で失われた干潟環境や素晴らしい自然が、まだまだ残されています。

ただ、その希少性、重要性については、直感的な理解は難しく、私たちは、どうしても一つ一つ積み上げながら学ばなければなりません。それは、地質学であったり、歴史であったり、民俗文化であったりすることもあるでしょう。単に生態学や生物学だけで全体像はつかめません。時には経済学や美術、音楽の分野の力を借りなければならないかもしれません。そうする過程で私たちは地域アイデンティティとしての自然を深く理解し、それが、世界とつながっていることについても思いを馳せることができるようになるのではないでしょうか。

そのためにも、私たちには「学びの場所」が必要になります。学校教育でも無い、狭い意味での社会教育でも無い、経済活動を含めた地域生活と学問的な世界がつながる場としての「中津干潟ネイチャーミュージアム」の実現に向けて、これからの10年活動を続けていきたいと考えています。

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