中津干潟ってどんなところ

▼瀬戸内海の西側、周防灘に面した福岡県の豊前市から国東半島にかけて、豊前海干潟が広がっています。「中津干潟」は、そのほぼ中央にあたる中津市沿岸に位置する瀬戸内海最大の干潟です。中津市は大分県の北部に位置し、福岡県との県境の中核都市として知られています。中津干潟の広さは東西に約10㎞、面積は1,347ha(注:環境省(1997);日本の干潟、藻場、サンゴ礁の現況)、瀬戸内海最大の干潟です。沖に向かって3㎞ほど歩いて行くことができます。

▼干潟の形成には河川の役割が重要ですが、「中津干潟」には一級河川の山国川と二級河川の犬丸川という2本の河川とその支川流れ込んでいます。特に山国川は流域面積が広く、中津干潟の形成に大きな影響を与えています。河川を集水域という視点でとらえると、山国川は中津市という一つの自治体の領域にすっぽり入るように流れていることがわかります。つまり、山国川の源流部から最下流の中津干潟に至るまでの集水域環境が一つの自治体に収まるかたちとなっています。そして、その集水域は一つの完結した生態系を構成することが知られており、これは近年注目を集めつつある考え方です。

▼中津市の面積は491.53㎢、山国川の幹川流路延長は56㎞。上流部は耶馬日田彦山国定公園に指定されています。これらの集水域の行き着く先が「中津干潟」であり、干潟には集水域の豊かな自然の恩恵がもたらされますが、同時に、人間活動の結果として出るごみなどの排出物も流れ着くという側面もあります。

▼中津干潟」には、日本各地で絶滅してしまった貴重な生きものたちが数多く生息しています。調査で確認された814種の内、実に約3割が希少種であることがわかっています(注:水辺に遊ぶ会(2014);水辺に遊ぶ会レポート2013)。干潟はもちろん、河口域の砂州や砂浜、塩性湿地など自然環境の豊かさと、生物多様性の高さは国内随一であり、全国的にも注目されています。

 

中津干潟のすごいところ①

歩いて沖まで行ける

▼日本最大の干潟は有明海と八代海に集中していて、日本の干潟面積の約6~7割を占めています。「中津干潟」を中心とする豊前海の干潟は、これに次ぐ国内の約1割の面積を有し、瀬戸内海最大の干潟です。有明・八代の干潟はシルト分の多い泥質干潟ですが、中津干潟は砂分の混じった砂泥質干潟です。"潟スキー"などの特殊な道具を使わなくても、大潮時には沖合約3kmあたりまで、歩いて行くことができます。20年程前までは潮干狩りも盛んに行われ、アサリを中心に豊富な貝類がでとれていましたが、近年は減少が心配されています。

▼それでも干潟を歩くと、巻き貝やカニ、ハゼの仲間などの生きものを多く見ることができます。また、他の地域では絶滅してしまったり数が少なくなってしまった貴重な生きものたちも、普通に観察することができる数少ない場所です。大新田(おおしんでん)地区の干潟に立って、沖から陸地を眺めると、松林が広がる光景が見られ、かつての白砂青松の風景を想像することができます。

 

中津干潟のすごいところ②

カブトガニに代表される希少生物

▼「中津干潟」の自慢は、希少生物の宝庫であることと、生物多様性の高さです。水辺に遊ぶ会が実施している干潟の生物調査では、全体の3割近くが希少種であることがわかっています。つまり、干潟で目にした生物の3種にひとつが絶滅の危機が叫ばれている種であるということになります。ちょっとすごいですよね。日本の干潟の自然環境が悪くなったり失われてしまっている中、中津干潟には、各地で消えていったり少なくなってしまった生きものたちが、懸命にその生命をつないでいるのです。

▼中津干潟のシンボルのカブトガニです。成体(おとな)は体長約50〜60㎝、体重2~3㎏の大きさになりますが、干潟の泥の中でくらす幼生(子ども)は、子どもの爪くらいから手のひらにのる程の大きさです。夏の産卵期には、砂浜に多くのつがいがやってきて卵をうみます。昔は瀬戸内海や九州にたくさん生息していましたが、今ではカブトガニが普通に見られる干潟は国内で数カ所しか残っていません。カブトガニが生き続けるには、産卵する砂浜と、幼生が生活する干潟と、成体がくらす沖の深い海が必要です。この環境のどれかひとつでも欠けるとカブトガニは生きていけません。カブトガニは健全な海のバロメーターとも言われています。

▼「中津干潟」に生息する希少な生きものとして、アオギスという魚も知られています。かつては、全国の大きな川が流れ込む干潟に広く分布していました。特に東京湾では、干潟に脚立を立ててアオギスを釣る「脚立釣り」が風物詩だった時代もあり、文化的側面も含め貴重な魚として注目されていますが、すでにほとんどの海域で絶滅したものと考えられています。国内でまとまった数が健全な状態で残っている地域は、中津干潟を中心とした豊前海だけであり、その保護が課題となっています。

▼この他にも、貝のようで貝ではないミドリシャミセンガイの仲間や、魚のようで魚ではないナメクジウオなど、奇妙で希少な「生きた化石」と呼ばれる生きものたちをはじめ、中津干潟で初めて見つかったオオシンデンカワダンショウやニッポンヨーヨーシジミなどの新種の生きものも数多く見ることができます。

 

中津干潟のすごいところ③

渡り鳥の飛来地

▼三つめの自慢は、シギやチドリの仲間、カモの仲間など、多くの渡り鳥が「中津干潟」にやってくることです。これまでの調査から、有明海や八代海に次ぐ大規模飛来地であることがわかってきました。シギ・チドリ類は、春期には2,500〜6,000羽、秋期に400〜1,000羽、冬期に1,700〜3,700羽の飛来が記録され、国際的な評価であるラムサール条約(水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)の登録基準を満たしています。中津干潟が水鳥の飛来地として世界的に重要な干潟であることが、専門家の間で広く知られ始めています。

▼シギ・チドリだけでなく、カモの仲間も毎年7,000〜8,000羽が越冬しています。中でもヨシガモは、世界で80,000〜90,000羽程度しかいないとされていますが、2015年には10,000羽を記録するなど、その数に注目が集まっています。

▼冬期にはズグロカモメもやってきます。世界の推定個体数が7,000〜10,000羽程度とされていますが、中津干潟では100羽程度が越冬しています。干潟の上をひらひらと舞いながら好物のカニを見つけると急降下する姿を楽しむことができます。また、最近では世界中で約3,000羽しかいないといわれているクロツラヘラサギやヘラサギの姿も見ることができます。これらの渡り鳥たちが数多く飛来するのは、中津干潟に豊かなエサ資源があって、過ごしやすい環境が残されている証拠なのです。